2014年良かった録音物

 あまり家でゆっくりレコードを聴く1年ではありませんでしたが…。自分の振り返りの為に。順番には意味はありません。

 

  •  SOHN『Tremors』
Tremors

Tremors

 

 FKA twigsにもトラック提供するSOHNのソロアルバム。センスが迸る素晴らしいアルバムでした。SOHNのヴォーカルも結構好きなんです。大量に曲を生産しているはずなのに、曲のクオリティが全く落ちないのはすごいです。

 

  • Seun Kuti & Egypt 80『Long Way to the Begininng』
Long Way to the Beginning

Long Way to the Beginning

 

  前作のBrian Enoのプロデュースから、今作はRobert Glasperのプロデュースになり、グラスパーらしい低音に芯の入った図太いグルーヴが炸裂しています。アフロビートをより現代的にアップデートしていく試みはどこまで到達するのか楽しみです。

 

  • 渡邊琢磨『Ansiktet』
Ansiktet

Ansiktet

 

  久々の復活作。ハードコア期を抜けて、軽さと優雅さがあって楽しく聴けました。サントラとかミュージカルのような構成も面白かったです。

 

  •  Kris Bowers『Heros & Misfits』
Heroes & Misfits

Heroes & Misfits

 

  Jazz the New Chapterのお陰で、現代ジャズもまた興味を持って聴けるようになった1年でした。Kris Bowersは音色もタイトかつデッド気味で違和感なく馴染んで聴けました。

 

  •  Nir Felder『Golden Age』
Golden Age

Golden Age

 

  叙情的な音色と、バンバン飛び出すぶっ飛びのアドリブソロが自分の大好きだったポストロックを彷彿とさせて熱くなりました。モヤのようなリバーブのかかったギターソロを爆音で浴びたいものです。

 

  •  INNDER SCIENCE『SELF FIGMENT』
SELF FIGMENT (紙ジャケット2枚組仕様)

SELF FIGMENT (紙ジャケット2枚組仕様)

 

  とにかく気持ちいい。ビートもウワモノも磨き上げられた音がキラキラと輝いています。踊ってもいいし、そうじゃなくても良しという包容力も良かったです。

 

  • Carpainter『Jubilate EP』

 CarpainterのEP。現場でのプレイも最高でしたが、色んな人がDJでかけてたな~と思います。同世代への彼の影響力がすさまじいということも実感しました。

 

  •  cashmere cat『Wedding Bells EP』

 比較的寡作の印象のあるcashmere catですが、リリースされるものはクオリティの高いものばかりでした。ビートの組み立て方の先進性が突き抜けています。

 

  • mumdance『Springtime EP』

 自らの音楽を「Alien Music」と称するmumdanceの奇妙な音楽は、音色からとっても新鮮な驚きと興奮に溢れています。一体頭の中がどうなっているんでしょうか。

 

  •  P Money『Originators』

 来日公演で衝撃のパフォーマンス(2014年個人的No.1でした)を見せてくれたUK Grimeシーンの代表的MC、P MoneyのEPシリーズの最新作。Hi5Ghostの「Karate Kid」のKahn & NeekによるRemixにラップを載せていて、文句なしのカッコよさです。

 

  •  THE BUG『Angels  & Devils』
Angels & Devils [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC420)

Angels & Devils [帯解説・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (BRC420)

 

  来日も見に行きましたThe Bug。ポスト・ダブステップのその先に轟音ノイズを見出した独自路線。EarthのDylan Carlsonとのコラボレーションも納得のやかましさ。

 

  •  Lamp『ゆめ』
ゆめ

ゆめ

 

  Lampはいつも素晴らしい作品を届けてくれるんですが、今回はさらに歌謡曲っぽさが強いアルバムのように思いました。Lampだけでなく、東京インディー系の人たちも歌謡曲への回帰の傾向があるように感じて、それと繋がっているように思えました。

 

  • Mad The Only Child『Day Break EP』

 日本の目立っているインターネットヒップホップってアッパーなものが多いと思うんですが、MTOCはどこまでも陰鬱で、陰に隠れた側面を曝け出してくれているように思いました。甘く優しい悪夢のようなクラウドラップの心地よさ。

2014年良かった声優アルバム

聴いて好きだったアルバムです。

 

LIVE 2013 ”Roots of SSW”

LIVE 2013 ”Roots of SSW”

 

 坂本真綾の2013年のツアーの音源を配信限定でリリースした作品。
 アルバム『シンガーソングライター』のアレンジャーの一人でもある河野伸バンドマスターに置き、メンバーには今堀恒雄佐野康夫らを迎えて『シンガーソングライター』の持つ落ち着きと凛々しさに、ライブならではの力強さが加わったライブアルバムです。

 アルバムの個人的ハイライトだったのが#5「ニコラ」~#6「Ask.」。坂本真綾らしい繊細さと包み込むような優しさ・軽やかさの裏の誇り高き諦観とでも言うような、彼女の辿り着いた境地が象徴されている2曲だと思いました。ライブは全体的に乾いた質感のフォーキーなテイストの楽曲が中心で、Wilcoのようなオルタナカントリー~オルタナフォークっぽさもあるように思いました。

 坂本真綾のある種の高貴さを漂わせた存在感は、J-POPの最前線で活躍する似た立ち位置であるYUKIBonnie Pinkなどとも違った非現実性を持ち合わせていると思っていて、現実主義的なストイックさと時折見える非現実的な純度の高い美しさが混じりあう瞬間の色合いにノックアウトされました。

 

  • Trident『Purest Blue』
Purest Blue

Purest Blue

 

 渕上舞沼倉愛美・山村響によるユニットTrident。今作はキャラ名義での個々のキャラクターソングや、Blue Steels (興津和幸宮下栄治・松本忍)の曲も含んだ『蒼き鋼のアルペジオ』の作品としてのヴォーカルアルバムです。

このアルバムにも収録のシングル「ブルー・フィールド」を含め11曲中7曲を手掛けたのが、謎のトラックメーカーユニットHeart's Cry。EDMを強く意識しながらも、フューチャーベース、ドラムンベースにも目配せしたような、ハードかつ洗練されたトラックメイク。クールネスを漂わせたヴォーカルが、サイケデリックなシンセと強いキック&スネアと絡み合って、大きな陶酔感をもたらします。

 I'veから続くトランスやプログレッシブハウス系の流れの中にこのアルバムやlivetune(Kz)の作品があるのかなと思いました。

 

「MUSIC OF THE ENTERTAINMENT」 / 豊永利行 <初回限定盤>

「MUSIC OF THE ENTERTAINMENT」 / 豊永利行 <初回限定盤>

 

 ライブや自主音源制作を以前より行なっていた豊永利行の、全作詞作曲を自身が手がけた1stアルバム。インディーのart sonicからのリリース。
 学生時代にバンドを組んでいたなど、音楽活動への意欲がとりわけ強かった彼の、音楽への熱意が詰まったアルバムです。熱い咆哮も交えながらも、噛みしめるようなリリカルな歌いぶりはBilly JoelNeil Youngなどを思い出しました。個人的には尾崎豊にも似てるかなと思いました。
 ダイナミックな歌唱を響かせるゴスペルな#1「Music of the Entertainment」、ピアノとともに美しいファルセットを披露する#3「花」、ヴィブラート全開のソウルファンクチューン#6「ゆめのあと」など、バックビートの上で転げまわるような熱い歌唱を迸らせるのが彼の持ち味で、聴きながら思わず唸ってしまうような衝撃の連続でした。

 ちなみにこのアルバム後リリース後、ANIPLEXからのメジャーデビューが決まりました。

 

Peace(豪華盤)(DVD付)

Peace(豪華盤)(DVD付)

 

  吉野裕行の2ndミニアルバム。

 1stミニ、その次のシングルとファンク曲が多かった彼ですが、今作でも渡辺拓也による#3「CATWALK」は、四つ打ちファンクな王道ダンスチューン。リズミカルなホーンとギターをバックに朴訥とした歌声が生々しいセクシーさを生み出しています。重さをなるべく排除したようなあっさりとした軽めのグルーヴが、もたれずに繰り返し聴けて、ジワジワと効いてきます。

 また、じっくり熱く歌い上げるフォーキーな#2「さみしがりやのバラード」も、斉藤和義や高橋優を思い出すような、荒っぽさの中に声の優しさが伝わる曲で、彼のざらついた歌声をじっくり味わえます。

 

  •  かと*ふく『with』
with[CD+DVD]

with[CD+DVD]

 

  加藤英美里福原香織によるユニットかと*ふくの2nd。1stではMONACAの面々を迎えて、ブギーファンクやフュージョンも取り入れるなど意欲的な一作でしたが、今作もライブを意識したコール&レスポンスを導入したりするなどビートの強い曲が中心となっています。

 #1「My Fridend」はミニマルなビートの上でセルフイントロダクションなリリックを高速で捲し立てる、RIP SLYMEの「Funkastic」などを思い出すカッコよさ。この曲だけでも加藤英美里がかなりの馬力ある歌声の持ち主なのが窺い知れます。強いキックとトロピカルなムードが混ざり合った、#3「Ready for SUNNY MODE」は広がりあるシンセの中を連打されるスティールパンが響き渡る爽快な一曲。

 今作は曲毎に雰囲気の落差が激しく、面食らってしまう部分もあるんですが、流れよりも作品集として捉えることで楽しみました。

 

  • Trignal『so funny』
so funny

so funny

 

  江口拓也・木村良平・代永翼の三人によるユニットTrignalの2nd。 Kiramuneの他のユニットにも言えることかもしれませんが、彼らはその中でも爽やかさを全面に打ち出していて、ジャニーズを意識した楽曲やミックスとなっています。

 #2「ORIGINAL COLOR」、#8「視線の先」などでは、R&B的テイストを取り入れたグルーヴィーでスタイリッシュなトラックが、三人のハイトーンでキレのある歌声とマッチして爽やかな聴後感を残してくれます。特に#4「愛しさのコントラスト」では、ムーディーな曲調でありながらもセクシーな面よりもピュアなストレートさを打ち出したヴォーカルが印象的です。無垢な少年性がtrignalの最大の魅力だと再認識しました。

 

 ミルキィーホームズでも活躍する三森すずこのソロ1st。

 ミュージカル経験者らしい力強い歌唱でアップテンポな曲を歌いこなす前半も悪くありませんでしたが、#7「サマーバケーション」からソウル的側面を強めたミッドテンポな楽曲が続く中盤が良かったです。特に矢野博康が手掛けた#11「恋の気持ちは5%」は、彼女本人が「The Cardigansのような曲を」とリクエストしたそうで、華やかなホーン・鮮やかなカッティングギター・しなやかにうねるベースが心地良く、今までの彼女にない大人びたロマンチックさが詰まった一曲です。

 そしてなんだかんだで、アルバムのラストを飾る、シングルにもなった「ユニバーページ」は渡辺翔らしいドラマチックな曲で好きです。サビ後のピチカートがアクセントのようになっていて、楽しい気持ちになります。

 

  • OLDCODEX『A Silent, within The Roar』
A Silent,within The Roar

A Silent,within The Roar

 

  今作から本格的にR・O・Nから独り立ちした形となったヴォーカルTa_2(鈴木達央)とペインターYORKE.によるユニットOLDCODEXの3rd。前作のオルタナ・エモ的なサウンドからプログレコア~メタルコアスクリーモな方向に揺り戻しつつも、それにさらに大きくUSパンクテイストを取り入れた作品。そのせいか内省的だった曲調も、BPMが早くアッパーな方向に変化しました。

 鈴木達央の儚さもあった初期の歌声と比較すると、スクリーミングヴォーカルの割合が増え安定感も出て、それを活かす方向に進んだような気がします。ロッキンオン社主催のCOUNT DOWN JAPANへの出演も納得の、とてもハードな仕上がりの、説得力を持つアルバムです。

 

SATO SATOMI [CD+DVD]

SATO SATOMI [CD+DVD]

 

 佐藤聡美の1stミニアルバム。製作陣にHawaiian6庵野勇太、凛として時雨ピエール中野the band apartの原昌和、さらにlocofrankをバンドごと迎えるなど、強くゼロ年代J-ROCKを意識した作品。

 WeezerMatthew SweetSmashing Pumpkinsなどを彷彿とさせるパワーポップオルタナティブロック的な要素満載で、ローを上げた重く分厚いディストーションギターと彼女のヌケのいいヴォーカルのコントラストが爽快です。#2「さよならギャラクシー」は目まぐるしく動くストリングスと、バンアパ的なトリッキーなベースラインが組み合わさったフュージョン的な印象のある複雑な楽曲。ですがそのテクニカルさよりも彼女の可憐な歌声の爽快感が勝ったダイナミックかつドラマチックな一曲。

 #8「オレンジdays」はイントロからの前半部がSmashing Pumpkinsの「Today」とそっくりで個人的に嬉しくなりました。

 

VESSEL(初回限定盤)(DVD付)

VESSEL(初回限定盤)(DVD付)

 

  鈴村健一の3rd。彼のしゃくり上げるような歌唱と包容力ある温かい声は健在で、ロック的な楽曲中心ではありますが、高BPMで音を詰め込んで埋めていくような曲は少なく、テンポを抑えて彼の声が自由に動き回れるような隙間を残したアレンジが多いのが印象的です。

 特に、スタジアムロックな印象すらあるシンガロングな#2「SHIPS」、ソウルロックテイストな朗らかな#5「バベル」、フィドルマンドリンが軽やかなアイリッシュフォーク#10「おもちゃ箱」などは、彼の温かい声が堪能できて良かったです。

 

未来トラベラー

未来トラベラー

 

 大橋歩夕の7枚目のミニアルバム。ミニアルバムを多くリリースしている大橋歩夕ですが、今作はアーティスト性を重視したというミニアルバムシリーズの三作目。

 今作は70年代的サイケロック~ファンクロックなサウンドで活動するバンド、Spooky Electricを一部サウンドプロデュースに迎えて、深く沈み込むような内容。打ち込みリズムとピアノのみでどこまでもシリアスに沈んでいくアンビエントなアシッド・フォークな#1「Tears From the Sun」。#5「レザリアム -Laserium-」はPrince & the Revolutionの『Parade』的なディープエレクトロファンク大橋歩夕のかわいらしい声とダークなテイストな楽曲って結構合うなと思った作品でした。

 

アップルミント[通常盤(CDのみ)]

アップルミント[通常盤(CDのみ)]

 

  内田彩のアーティストデビューの1st。

 前半のビートロック調の曲のラッシュはJUDY&MARY好きという彼女らしい展開。中盤からは色を変え、#7「キックとパンチどっちがいい?」はアルペジオのギターとコーラスが印象的なメルヘンチックな楽曲。童謡のような三拍子がインパクトのある#10「泣きべそパンダはどこへ行った」とともに、この2曲は佐々倉有吾トイポップ~ラウンジ的なセンスが発揮されていて、彼女の幼児的響きの声とマッチしているように思いました。

 #9「ピンク・マゼンダ」は逆再生のようなオブスキュアな音色のシンセから、静かにリズムを刻むビートが強いキックへと発展し、ストリングスとコーラスが壮大に広がっていくというドラマチックな仕上がり。サカナクションの近作に影響されたかのような洗練された曲で、強く心に残りました。器用に歌う人だと改めて感じて、次作以降も楽しみになりました。

 

声優レアグルーヴ

声優レアグルーヴ

 

  渋谷otoに定期的に「声優レアグルーヴ」と銘打ち、過去の声優曲を掘り起こすDJイベント開催しているDJ二人によるコンピレーションCD。

 堀川りょうのハイトーンヴォーカルが炸裂するパーカッシブな「CAMOCIKA」や、容赦の無いむき出しのブレイクビーツの上をクールで青いフロウが絡みつく、平野綾が所属したThe Springsによる久保田利伸カバー「TIMEシャワーに射たれて」など、クラブ的なフロアの視点から声優曲がチョイスされています。

 個人的な思い入れのあった、千住明の手掛ける緒方恵美の「タイム・リープ」が収録されていて、嬉しさとともに、この曲の透明感あるホーンとギターのアレンジの素晴らしさに改めて聴き惚れてしまいました。

 「声優レアグルーヴ」というDJイベントがあるということを知ったことで、そういう楽しみ方もあっていいんだと元気をもらった部分もありました。 

 

 

 今年の作品では、あとは竹達彩奈『Colore Serenata』、花澤香菜『25』、上坂すみれ『革命的ブロードウェイ主義者同盟』、中島愛『Thank You』、KENN『KENN VOCAL ALBUM』などが良かったです。

2014/4/17 花澤香菜 LIVE 2014 "25" at 愛知県芸術劇場大ホール

 花澤香菜のアルバム『25』の発売に伴うレコ発ツアー名古屋公演。前作『Clarie』の際は東京・大阪のみだったライブも今回は愛知・埼玉も加わり4会場となりました。
 今回のライブツアーはアルバムと同じく『25』と銘打たれていることもあり、『25』からの曲でほぼ構成。前回のツアーと同じく、ツインギター・ベース・ドラム・キーボードの5人編成で、メンバーもほぼそのままでしたが、前回参加していたドラマー宮田繁男(ex.ORIGINAL LOVE)が急逝したため、ドラムのみFuzzy ControlのSATOKOにチェンジ。そのためかロック的な縦ノリ感の強いハードなサウンドになっていました。また、打ち込み曲ではバックトラックを流しながら、上から演奏を被せるというスタイルをとっていました。
 やはり印象的だったのは「Brand New Days」や「Make a Difference」などの、音源では打ち込み中心だった曲のバンド演奏になったことによる変化。生ドラムとツインギター編成を活かした力強いロックサウンドで、グルーブ感よりも叩きつけるようなビート感が強く打ち出されていました。北川勝利がアレンジした華やかなアルバム曲もロック色の強いサウンドへと変化していて、特に本編途中の衣装替えも兼ねたメンバー紹介コーナーで演奏したヘヴィなサイケロックインストが、このバンドの基本的なスタイルを象徴しているように感じました。会場の音響もハイ上がりの環境で、低音よりも高音が強調されていて、縦ノリ感をさらに強く感じました。
 ライブで2時間通して聴いていると、どうしても考えてしまうのは花澤香菜の歌声の不思議な感触について。最高音付近は不安定になる場面もありましたが、やはり彼女の声の特徴はウィスパーボイス。特に高域からやや下がった中高音周辺を発声するときに、甘い響きの基音と息漏れの倍音が交差していって、儚く頼りない幼い印象を残します。ライブ中はクラッシュシンバルなどに被って声が埋もれる場面もあって、逆にそのせいか彼女の声も楽器的に響いてきました。絶妙なバランスの上に成り立つ彼女の声を聴きながら、そのアンニュイで繊細な響きは唯一無二だなと再認識しました。

花澤香菜『25』 ~80's NEW WAVEの亡霊~

25(通常盤)

25(通常盤)

 

  1stアルバムである前作『clarie』をround tableの北川勝利がサウンドプロデュースを務めて注目された花澤香菜。引き続き北川勝利の総合プロデュースによる2ndは、彼女の年齢にちなんだ25曲2枚組の大ボリュームのアルバムです。前作から1年を経ずにリリースされた今作は、基本的には前作の延長線上にあり、彼女の声が持つ清純性を全面に打ち出す作風も引き続いています。

 25曲100分という量もあるのですが、似た方向性の曲が繰り返し登場して、どうも長く感じて聴いていてダレてきます。彼女の声の魅力を引き出すという方針はどの曲も統一されているのですが、「花澤香菜の持つ少女性・天真爛漫・儚さを60'sポップス~ロックなどのポスト渋谷系的解釈によって表現する」という方向からスポットライトを当てた楽曲が多いため、通して聴くと単調に感じます

 新しい挑戦や目新しさを評価するかは人によるでしょうが、今作は前作に比べて進化した点、変化した点が見えにくく、むしろ前作の方がエレクトロニカファンクな#2"Just The Way You Are"や、アンビエントポストロックな#12"眠るサカナ"など、花澤香菜だからこそできた楽曲が目立っていました。今作はアルバム全体が冗長でインパクトの薄さも否めず、アルバム全体の完成度よりも声の魅力が伝わる楽曲を詰め込むことを優先したように感じますし、彼女の声に魅力を感じているファン以外への訴求力は低い作品になっていると思います。

 アルバムの中には引用元が露骨に分かる曲もあり、またその引用先も公言されていたりします。Disc1-#3"Brand New Days"はScritti Polliti、Disc1-#5"マラソン"はThe Smith、Disc2-#3"パパ、アイ・ラブ・ユー!!"はAztec Cameraなど。目立つのは80年代ニューウェーブのテイストで、花澤香菜のアルバムである側面と同時に、作編曲家の80年代趣味が顕になっているアルバムです。北川勝利や他の主な作曲家陣の世代にとってアイドルソングといえば80年代MTVなどに代表されるようなニューウェービーなサウンドであるということなのかもしれません(そして華やかなストリングス)Vaporwave以降、tofubeatsなど現代の若い世代のトラックメーカーたちによって80'sニューウェーブのシンセ感覚も再評価されており、期せずしてこのアルバムは一周回ってそんな流れとも一部シンクロしたものを感じました。

 もちろん個々の楽曲ごとでは、彼女のキュートな歌声と高品質の楽曲を堪能することができて、1-#3、1-#6"YESTERDAY BOYFRIEND"、1-#8"Make a Difference"、2-#4"Eeny, meeny, miny, moe"、2-#8"真夜中の秘密会議"が個人的に気に入りました。特にミトによる#8は、いかにもな80's的オケヒとヴォイスサンプリングをこれでもかと使っていて、思わず笑ってしまうと同時に懐かしい気分になりました。