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声優のアルバムの名盤を考えてみる(00年代以降編)

 前回は90年代で、今回は00年代以降です。

 2000年以後の声優ソング(・アニメソング)は、チームを組んで音楽制作する人たちが増えました。I've、Elements Garden、MONACAなどなど。その他に著名ミュージシャンが、声優ソングを手がけることも目立つようになりました(またそれを大きくアピールするようにもなりました)。代表的な所ではクラムボンのミト、round tableの北川勝利、UNISON SQUARE GARDEN田淵智也SUEMITSU & THE SUEMITHの末光篤、ex.Cymbalsの沖井礼二などが、曲提供及びプロデュースを行なっています。

  そのため00年代以降は、よりJ-POP~J-ROCKに近づいていく洗練化の流れと、従来からのアニソン・キャラソン的いなたさを期待する流れのせめぎ合いが続いているように思います。

  2013年上半期編も書きました。

  

お散歩ハウス

お散歩ハウス

 菅野よう子作品にも参加するギタリストで、元Tipographica、今はUnbeltipoとして活躍する今堀恒雄がプロデュースしたアルバム。作詞にはそのTipographicaで一緒に活動していた、文筆家としても人気の菊地成孔DCPRG菊地成孔ダブセプテット、東京ザヴィヌルバッハ)。この強力曲者タッグでアイドル声優のCDを作るという破天荒なアルバム。

 どう考えても普通の作品にはならないと思いきや、想像以上に真っ当にポップでキャッチーなアルバム。今堀さんの切れ味の良いギターは相変わらず素晴らしいですが、加えて遊び心溢れたアレンジが満載です。ヒップホップ、ハウス、サンバ、アンビエントなど曲調もバラエティに富んでいて、でも最後には山本麻里安のコミカルでナイーヴなキャラクターが印象に残るという、アイドル的にも音楽的にも楽しいアルバムです。

 菊地さんのお馬鹿だったり、不穏だったりする歌詞が最高で、

 #3"ヴィーナスと小さな神様"の、

「みんな大きくなってやがて死んでも ここにまた産まれてくるからにぎやか」

という、穏やかな曲調に突如現れる過激なフレーズの落差に、ドキッとさせられます。

 

 

caramel

caramel

  3rd。声優では珍しいネオソウル的なR&Bを一部フィーチャーしたアルバムです。Groove TheoryMaxwellを想起するようなスウィートでややアンビエントなムードのトラックが心地よく、池澤春菜の甘いヴォーカルとアーバンなトラックが意外に相性が良いのに驚かされます。作・編曲のJam-T・Jam Soulがどういう人物なのか気になります。

 ネオソウルな冒頭2曲の後、3曲目にSuzzane Vegaの"Tom's Diner"のテクノポップカヴァーが入り、その後リミックスと寺嶋民哉の楽曲がへと続き、冒頭の流れとは少し違った方向へ展開されていきます。

 現在の作品にはもちろん、前後の作品にもこのようなディープなソウルフィーリングの曲はなく、偶然のように生まれたサウンドが印象的なアルバム。もう少しこの路線も続けて欲しかったです。

 

 

発芽条件M

発芽条件M

 1stアルバム。今作の全作詞を担当もしている畑亜貴~月比古の世界観をフォローした上で、清水愛自身のキュートな面をプラスした、ダークなゴシックロリータ的世界観に基づいた作品となっています。

 伊藤真澄ALI PROJECT片倉三起也などが参加していますが、注目はex.refiokukuiのmyu。作編曲として#3、#5、#9、編曲のみとして#4、#5で参加しています。アルバム中の数曲の中だけでも、彼女のアレンジからはkettelやthe books、高木正勝などのエレクトロニカ・アーティストたちからの影響と、菅野よう子梶浦由記などの作曲家からの影響が並列的に存在しているのが分かります。今までの作曲家にはないエレクトロニクスとオーケストレーションのバランスが、まさに00年代以降の感性の作曲家だと思います。

 アルバムラストの#9"幻視鏡"は、そのmyuによる曲。清水愛のヴォーカルを中心に、タイトな生ドラム、流麗なピアノとストリングス、霜月はるかの民族的コーラス、エレクトロニクスがバランスよく共存していて、調和の取れた美しい曲になっています。いい意味でアクのない、さりげない楽曲を作るのがmyuなのですが、音色の響きを活かそうとする意図がこの曲に表れているように思います。内向的でメランコリックな曲が続くアルバムの中で、清冽な響きでもって最後を美しく飾る曲でありながら、

「向こうへ行くの」「恐れないでカラダを抜けて」

自死を暗示させるようなフレーズが甘く響くアンビバレント。このアルバムの不思議な中毒性を象徴しているように思います。

 

 

天球の音楽

天球の音楽

  所属していたレーベルも世代的にも、坂本真綾フォロワー的立ち位置から音楽活動がスタートした牧野由依。音大卒でピアノが堪能、かつ歌唱力もあるということで、大きな期待を背負ってのアルバムとなった1stアルバム。菅野よう子梶浦由記かの香織、ex.SPANK HAPPY河野伸round tableの北川勝利、島田昌典、窪田ミナなどのビクターのアニメ系に関係ある人脈を総動員した面々からも、力の入りぶりが伝わります。(この作家陣も坂本真綾と重複しています)

 牧野由依の声はは少しかすれ気味で、時に少し頼りなく感じる陰のある声が、切ないタイプの曲にはマッチしていて、アコースティック・エレクトロニカ風の#6"ユーフォリア"などでは、幻想的な雰囲気で魅了してくれます。

 かの香織による#11"CESTREE"は、ex.ビブラトーンズ、パール兄弟窪田晴男のディレイがかったモヤのようなギターと、ex.MUTE BEAT松永孝義の溜めの効いたベースが危うげなムードを醸し出し、牧野由依の囁く多重ヴォーカルが重なりあって、Juana Molinaシューゲイザー化したような、陶酔感あるアンビエントサイケデリックシューゲイザー的な曲に仕上がっています。

 

 

love your life,love my life

love your life,love my life

 アニメ「けいおん!」の平沢唯役で大ブレイクした豊崎愛生の1stアルバム。大の音楽好きであり、The BeatlesAretha FranklinElvis Costello、Dr. Feelgoodなどをフェイバリットに挙げています。

 このアルバムでは、クラムボンCHARAつじあやのなどを制作陣に迎えた、彼女の音楽的嗜好を反映したような充実した内容になっています。全体的にはドライな質感の録音で、クラムボンつじあやのの諸作を思い出す牧歌的な雰囲気です。意外だったのはヴォーカルが演奏に溶けこんだようなミックスで、サウンド全体で聴かせようという意図を感じます。

 #11"Dill"は、彼女がクラムボンのファンで、クラムボンのミトが彼女のファンということから、コラボレーションに至った1曲。ほぼクラムボン+1という形の曲になっていますが、お互い理解し合う同士の自然で楽しい雰囲気が伝わってきます。6/8のリズムで進み、サビで転調するというミトらしいトリッキーな曲ですが、爽やかな疾走感が心地良い1曲です。

 豊崎愛生の声はヘナっとした細い声で、ロックでテンポの早いアッパーな一部の曲の#3や#9などは相性が悪いようにも感じましたが、ロックが好きな彼女の楽しそうなヴォーカルを聴くと、これも悪くないのかもと思います。

 このアルバム以降のシングル群"music"、"フリップ フロップ"も、音楽的充実度を深めていっているので、次のアルバムの内容も期待しています。

 

 

秘密

秘密

  女性アイドル声優界ではトップクラスの存在ですが、音楽活動にも意欲的・意識的に取り組んでいる堀江由衣。スタッフとともに本人がコンセプトを立てた上でアルバムを制作し、それに合わせて毎回ツアーを行なっています。これは前作から約2年半ぶりとなった8th。

 今作は清竜人COALTAR OF THE DEEPERSNARASAKI、WATCHMANことex.Melt-bananaの大島昌樹など、強烈な個性を持った面々も参加しているのですが、彼らの楽曲も彼女の声の個性によって消化され、きちんと「堀江由衣の曲」として成立しています。曲によって細かく歌い方を変化させている彼女の器用さにも驚かされます。

 アルバム中でも#8~#12はタイアップ曲が続き、激しく曲調が変化していくのですが、やはりハイライトは、清竜人による#11"CHILDISH♥LOVE♥WORLD"。Ben Folds、Jack's Mannequin~Something Cooporate、Maeなどのピアノエモコアからの影響を感じさせる高速ハードコアソングを、完全に自分の曲として聴かせてしまう技術はさすが。キャリアを重ねた声優ならではの、可愛らしさを残したまま抜群の滑舌で高速で歌い倒しています。途中で入る語りパートも含めて清竜人堀江由衣への愛も感じられる曲です。

 従来の作品も充実していましたが、アルバム8作目にして過去最高作を生み出す意欲的な姿勢が素晴らしいです。

 

 

 男性声優もキャラソンだけでなく、アーティスト活動が目立つ人が増えてきたのですが(宮野真守谷山紀章など)、アルバムがあまりフォローできていないので、今後はもっと探って行きたいと思います。次回2013年のアルバムへ続きます…。