2013年声優アルバムベスト(その1)

 早いですが、今年はいいアルバムがかなりあったので、その1としてまとめました。

 2013年上半期の内容と一部重複していますので、ご了承下さい。

 

CONTRAST SILVER【通常盤】

CONTRAST SILVER【通常盤】

 

 正確には2012年のアルバムですが、12月26日発売だったので2013年扱いにしました。ヴォーカルのTa_2(鈴木達央)とペインターのYORKE.のユニットOLDCODEX。ギターとともに主な楽曲制作を担っていたR・O・Nが脱退し、代わってLUNASEAのINORANがサウンドプロデュースを務めた2nd。スクリーモメタルコアとパンクの影響が強かった今作以前に比べて、オルタナ~エモ的な方向に変化したフルアルバムです。ダイナミックな激しさが特徴のR・O・Nの楽曲も今作に含まれていますが、むしろ熱を内に秘めたようなクールな曲がひときわ目立っています。

 Sunny Day Real EstateやMineral、The Appleseed Castのような、轟音ギターが壮大に鳴り響く#6"Achromatic Habit"と#9"Elephant over"は、高らかに歌い上げる一方で、噛みしめるように囁くヴォーカルも印象的で、鈴木達央の歌唱表現の進化が感じられます。

  

  • 國府田マリ子『絶対的energy☆キラッ』(HAPPY HAPPY HAPPY RECORDS / BounDEE by SSNW)
絶対的energy☆キラッ

絶対的energy☆キラッ

 

 声優界のディーヴァといえば笠原弘子椎名へきる、そしてこの國府田マリ子です。15枚目のアルバムはインディーの自身のレーベルから。井上うに、イズミカワソラ西脇辰弥など彼女の作品ではお馴染みのメンバーが再集結しました。今作も自身が全作詞を担当しています。

 前向きな人間性やポジティヴなメッセージが目立つ人ですが、今作に限らず彼女のアルバムを聴くとシリアスで内省的な表現も得意としているのが分かります。

 今作の#3~#6では、繊細なヴィブラートも駆使し、ポジティヴ/ネガティヴな感情が一体となって曲の中に詰め込まれていて、彼女の音楽に向き合う真摯な姿勢とキャリアの重みを感じます。特に井上うにによる#4"穢れなき花"は、冒頭からほぼピアノと歌のみで進む、静謐かつ緊張感溢れる仕上がりで、2人の勝手知ったる信頼関係が伝わってきます。

 #6"明日への階段"も、軽い気怠さを含んだムーディーなアーバンソウルがいい感じで、既に彼女の存在感はKate BushやSuzanne Vegaのように、唯一無二の領域に入ってきているように思います。

 

Hat Trick

Hat Trick

 

 最初のCDリリースから8年経っての初フルアルバムリリースで、自身の音楽活動の総決算となった1stアルバム。manzoと雅大などが楽曲提供しています。

 シンフォニックメタル~メロスピ・メロパワ~メタルコア的なヘヴィなギターで押しまくる曲に、甘くねっとりとした彼女のヴォーカルが乗るという、濃厚な味付けがインパクトあるアルバムです。仄かに耽美的な雰囲気も漂わせています。

 #2"小さな恋のメロディ"は、筋肉少女帯のナンバーのカバー。この人も大槻ケンヂ信者だったのか…と思いながらも、声優らしく男女パートを歌い分けながら、オリジナルに比較的忠実にアレンジし、その愛を表現しています。

 #12"SAVE THE WORLD"は、ブギウギをフィーチャーした跳ねるようなリズムが特徴の一曲。彼女の粘着質なヴォーカルに軽やかなシンコペーションがハマっていて、今っぽい響きとオールドスクールな雰囲気がいい塩梅にミックスされた、とても好きな曲です。

 

ポラリス (劇場版「とある魔術の禁書目録 エンデュミオンの奇蹟 」劇中歌 )

ポラリス (劇場版「とある魔術の禁書目録 エンデュミオンの奇蹟 」劇中歌 )

 

  劇場版「とある魔術の禁書目録 -エンデュミオンの奇蹟-」のタイアップアルバムとして、昨年のデビューシングルに続いてリリースされた三澤紗千香のミニアルバム。I'veの中沢伴行井内舞子、fu_mouが楽曲提供&サウンドプロデュースしています。fu_mouは黒崎真音やDJ WILD PARTYも所属する事務所「一二三」の所属で、Maltine Recordsからもリリースしているトラックメイカー。

 fu_mouのエレクトロハウス~EDM以降を感じさせる、ファットなベースと強力なキックからなるソリッドなトラックは、三澤紗千香のアクの少ない清冽な声と相まって、ある種の清純さを演出しています。パキッとドライな響きのトラックは、ディレイ・リバーブ・ボーカルエフェクトを多用するI'veのトランシーな作風とは対照的で、陶酔感よりもフィジカルな爽快感が強く残ります。

 

  •  多田葵『ポップミュージック』(ScrumStaff / BounDEE by SSNW)
ホップミュージック

ホップミュージック

 

  この人は声優からは実質引退されているんですが、アルバムのクオリティに敬意を込めてここに入れさせていただきます。Swinging popsicleの平田博信、同人でも活動する流歌、ボカロPのでか大が参加。ボーナストラック・再収録を除く全ての曲を自ら作詞作曲しています。

 Swinging Popsicleの音楽性にも近い、Cardigansのようなソウルテイストを含んだソフトロック~ピアノロック。自らの率直な言葉・内から湧き出る自然な旋律を歌っていて、誇張や作為の薄さが日常にすっと馴染んできます。ヴィブラートやフェイクを多用してもしつこくなることなく、サラッと流れて染みこんでいきます。

 過剰に華美になったり、変に戦略性に走ったりすることなく、まっすぐで真っ当にいいアルバムをドロップしてくれた彼女の真摯な姿勢に感心しました。

 

  •  相沢舞『moi』(Victor Entertainment)
moi

moi

 

 「5000枚売れなければ次のリリースはない」という本人の告白も含めて、今年1番の衝撃の作品だった相沢舞の1stアルバム。fu_mouによる先行シングルからは想像のつかない内容の完全J-ROCK仕様アルバム。

 school food punishment蓮尾理之のジャジープログレエモな#2"Speech Balloon"、そしてbuzzGによる#3"タイムカプセル"から#4"1572"と連なる、華麗にバーストするビューティー・エモはRainer Mariaのようでもあり、可憐と熱情を核にしたこの3曲のインパクトが強烈です。

 実はbuzzGのアルバム『Symphony』にもヴォーカロイドたちに混ざって相沢舞のヴォーカルがフィーチャーされている曲が1曲あるのですが、このアルバムと同じ路線でギターとヴォーカルが爆発するエモい曲で大好きです。

 私は相沢舞さんの次のリリースを待っています。配信シングルでも同人でもいいから出して下さい!

 

PASSAGE

PASSAGE

 

  宮野真守の1年半ぶり4thアルバム。#1"UNSTOPPABLE"からドラムンベース、ブロステップなワブルベースも飛び出す大箱仕様のエレクトロ。アルバム通してスケール感の大きい曲が多くなり、ホールミュージシャンに成長した自身に対する意識の変化なのかな?と思いました。引き続いてのEDM~ニューエレクトロ、R&B路線も健在です。

 #5"愛の詩 ~Ulyssesの宴~"では、期待していたファンク曲が実現。ビックバンドジャズファンクを披露していて、彼の奔放でパワフルなヴォーカルが炸裂しています。しかし、セクシーさを匂わせながらも健全な清潔感を保っているのが彼らしいと思います。

   

  • 悠木碧『メリバ』(flying DOG / Victor Entertainment)
2nd プチ・アルパム「メリバ」(通常盤)

2nd プチ・アルパム「メリバ」(通常盤)

 

  新居昭乃保刈久明というアニメ界隈エレクトロニカシーン筆頭のコンビを作家陣に迎えた悠木碧のアルバム。ツジコノリコpianaの作品のようなドリーミーで、チャイルディッシュ&ガーリーエレクトロニカの世界が広がっています。

 自身のアルバムも今年リリースした保刈久明はやはり過小評価されている、と思わざるをえない素晴らしい内容です。世界観を含めた作品の完成度の高さは、新居昭乃のアルバムはもちろんですが、ACOがportable [k]ommunityこと澤井妙治と組んだ名盤『irony』にも迫っていると思います。

 

 その2へ続きます。