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ゼロ年代の音響系ジャズドラマーたち / 『Jazz The New Chapter』によせて

 

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平 (シンコー・ミュージックMOOK)

 

 ジャズ評論家・柳樂光隆さんの編集による『Jazz The New Chapter~ロバート・グラスパーから広がる現代ジャズの地平』を読んで、ある二人のドラマーのことを思い出しました。

 そもそもこの本は、Robert Glasperを中心に置いて現代のジャズを捉え直そうという狙いのもとに編集されているのですが、その際に彼のバンドRobert Glasper Experimentのドラマーを務めるChris Daveの特異な才能が重要なポイントとして注目されています。Chris Daveのブライトな音色とキレのあるジャストなグルーヴのドラミングなくして、Robert Glasper Experimentのサウンドは成立しないと私も思いますし、異論を挟む人は少ないと思います。彼のドラミングそのものが、現代ジャズからの生演奏ヒップホップへのアンサーとして重要な鍵となっているのです。

 

 そこで私が思い出したのは、音響派・ポストロック・エレクトロニカゼロ年代に大きなムーブメントとなった際に、非ジャズサイドから音響派的感性によってジャズを解釈し直そうとしたバンドのドラマー2人でした。

 Radian、Trapist、Autistic Daughtersなどで活動するオーストリア・ウィーンのドラマー、Martin Brandlmayr(マーティン・ブランドルマイヤー)と、Trioskで活動していたオーストラリア・シドニーのドラマーLaurenz pike(ローレンス・パイク)の2人です。

 

 前者のBrandlmayrは擦る、はじくといった奏法を得意としており、映像なしで音だけを聴いていると何をしているのか全く分からないどころか、本当にドラムを演奏しているのかすらはっきりと認識できないほどです。その異様な音色は音への注目・集中を否応なしに課します。自分が今聴いている音とは何なのか・どうやって奏でられている音なのかということに意識を向けざるを得ません。


 

 

 一方Laurenz Pikeは、シンバル・ハイハットを駆使した手数の多いドラミングが特徴で、高音が突き刺さるグリッチノイズにも近い独特の音色を響かせます。水しぶきのような軽やかな音色は、同時期のエレクトロニカからの影響を多分に感じさせます。その音色はダブ加工やエレクトロニクスとの相性もよく、Jan Jelinekともコラボレーションアルバムをリリースした、ジャズ/エレクトロニカを横断するようなTrioskの重要なバンドカラーとなっていて、シャワーを浴びているかのような快楽性も同時に持っています。

 

  

 この二人に共通しているのは、ドラムで何を演奏するかの前に「ドラムで何が出来るのか」「ドラムをどうやって演奏するのか」というのを重視している点です。バンドにおけるドラムの存在と自らの演奏を客観視して、音響装置としてのドラムを捉え直した時に、まず奏法・音色からアプローチするという手法を彼らは採っています。しかもそれは楽曲やバンド、ドラム演奏そのものを変質させてしまうような過激なやり方によって。

 上の動画を見てもわかりますが、シンバルをスネアの上に置いたり、スネアを2個用意したりと、二人ともセッティングの段階から独自の奇妙なアプローチを試みています。そして驚くべきほどの繊細な、また大胆な演奏によってその音色を作り上げています。

 「何を演奏するか」「メロディーはどうか」という前に、検討すべき重要なことはもっと沢山ある、というのが音響派以降の感性の思考であり、Robert Glapser ExperimentにおけるChris Dave同様、その中でドラムは最も重要な検討課題の一つであるということ、それを二人のドラムが教えてくれます。そして彼らのドラムが生み出す音色の快楽性は、ジャズが従来持ちあわせている志向である「音色への耽溺」というものを再認識させてくれます。

  因みにradianとtrapistThrill Jockeyから、Trioskleafからのリリースとなっていて、前者はポストロックなどを中心にリリースするレーベル、後者はエレクトロニカ~ポストクラシカル系のレーベルで、どちらも非ジャズレーベルです。音響派・ポストロック・エレクトロニカの遺伝子の中にはジャズからの影響が色濃く存在していることを証明しているようにも思えます。

 

Ballroom

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Juxtaposition

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ザ・ヘッドライト・セレナーデ

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