花澤香菜『25』 ~80's NEW WAVEの亡霊~

25(通常盤)

25(通常盤)

 

  1stアルバムである前作『clarie』をround tableの北川勝利がサウンドプロデュースを務めて注目された花澤香菜。引き続き北川勝利の総合プロデュースによる2ndは、彼女の年齢にちなんだ25曲2枚組の大ボリュームのアルバムです。前作から1年を経ずにリリースされた今作は、基本的には前作の延長線上にあり、彼女の声が持つ清純性を全面に打ち出す作風も引き続いています。

 25曲100分という量もあるのですが、似た方向性の曲が繰り返し登場して、どうも長く感じて聴いていてダレてきます。彼女の声の魅力を引き出すという方針はどの曲も統一されているのですが、「花澤香菜の持つ少女性・天真爛漫・儚さを60'sポップス~ロックなどのポスト渋谷系的解釈によって表現する」という方向からスポットライトを当てた楽曲が多いため、通して聴くと単調に感じます

 新しい挑戦や目新しさを評価するかは人によるでしょうが、今作は前作に比べて進化した点、変化した点が見えにくく、むしろ前作の方がエレクトロニカファンクな#2"Just The Way You Are"や、アンビエントポストロックな#12"眠るサカナ"など、花澤香菜だからこそできた楽曲が目立っていました。今作はアルバム全体が冗長でインパクトの薄さも否めず、アルバム全体の完成度よりも声の魅力が伝わる楽曲を詰め込むことを優先したように感じますし、彼女の声に魅力を感じているファン以外への訴求力は低い作品になっていると思います。

 アルバムの中には引用元が露骨に分かる曲もあり、またその引用先も公言されていたりします。Disc1-#3"Brand New Days"はScritti Polliti、Disc1-#5"マラソン"はThe Smith、Disc2-#3"パパ、アイ・ラブ・ユー!!"はAztec Cameraなど。目立つのは80年代ニューウェーブのテイストで、花澤香菜のアルバムである側面と同時に、作編曲家の80年代趣味が顕になっているアルバムです。北川勝利や他の主な作曲家陣の世代にとってアイドルソングといえば80年代MTVなどに代表されるようなニューウェービーなサウンドであるということなのかもしれません(そして華やかなストリングス)Vaporwave以降、tofubeatsなど現代の若い世代のトラックメーカーたちによって80'sニューウェーブのシンセ感覚も再評価されており、期せずしてこのアルバムは一周回ってそんな流れとも一部シンクロしたものを感じました。

 もちろん個々の楽曲ごとでは、彼女のキュートな歌声と高品質の楽曲を堪能することができて、1-#3、1-#6"YESTERDAY BOYFRIEND"、1-#8"Make a Difference"、2-#4"Eeny, meeny, miny, moe"、2-#8"真夜中の秘密会議"が個人的に気に入りました。特にミトによる#8は、いかにもな80's的オケヒとヴォイスサンプリングをこれでもかと使っていて、思わず笑ってしまうと同時に懐かしい気分になりました。