ポストロックの名盤を考えてみる

【音源あり】これだけは聴いて欲しいポストロック超名盤まとめ

http://ticketcamp.net/live-blog/postrock/

  ポストロック名盤まとめの記事を読んで、自分もmice paradeの『mokoondi』は大好きだなーと思って、個人的に思い入れのあるポストロック名盤を考えてみました。
 ポストロックはUSハードコアの流れから誕生したアメリカ発のムーブメントだと自分は思ってるので、USのバンドが多くなりました。

 ちなみにここで挙げたアルバムの殆どが2000年前後のリリースです。その時期ポストロックシーンをフォローしていた雑誌は少なく、after hoursやFEADERやCOOKIE SCENEぐらいだったでしょうか。パルコのフリーペーパーFlyerもWAVEのスペースで関連作品の情報を掲載してくれていました。
 でしたので新譜情報を得るのはレコード屋がメインでした。渋谷warszawa(その後のsome of us)、高円寺LINUS RECORDS、名古屋stiff slack、FILE-UNDERなどから得た情報には大変お世話になりました。日本でのポストロックムーブメントは雑誌やライブハウスからでなく、レコード屋から浸透していった動きのように思っています。

Spiderland

Spiderland

 このSlintをはじめBastro、Rodanなどの90年代初頭の「プレ・ポストロック」ともいえるバンドたちの審美眼を土台として、様々なバンドが音楽性をその先へ進め、ポストロックへと発展させていきました。このSlintの91年の2ndは静と動のダイナミックな展開、重々しく不穏なサウンド、そしてバーストするギターが異様な緊張感をもたらしています。多くのバンドがSlintのサウンドを参照していますが、これほどの完成度に到達しているバンドは殆どいないと思います。



Sea & Bells

Sea & Bells

 今だとポストクラシカルなどの呼称で括られるであろう、Rachel'sの2nd。それぞれの楽器の響きを重視した室内楽的なストリングスが、ピアノと混ざり合って耽美的に響いてきます。このアンビエントでダークなムードは、彼らの出自であるポストハードコアからの影響を感じさせます。今のポストロックと呼ばれるバンドに比べると控えめな印象ですが、抑制されているからこそ、その美しさが引き立っています。




What Burns Never Returns

What Burns Never Returns

 King Crimson『Discipline』やMiles Davis『On the Corner』などの影響をハードコア解釈によって結実させた、マスロックという概念の始祖的存在Don Caballero。この3rdを聴くと、彼らがロック系に限らずミニマル、フリージャズ、ラテン・アフロなど様々な音楽に触手を伸ばしていたのが窺い知れます。トリッキーなリズムと荒っぽいジャンクな響きの取り合わせが問答無用でカッコイイです。緻密でありながら、欧州や日本のバンドにはないUS的な大らかさがあるように思います。




Camoufleur

Camoufleur

 David GrubbsとJim O'rourkeという天才SSW2人による実験性とポップさを兼ね備えたGastr del solのラストアルバム。Tortoiseと彼らの存在によってシカゴ音響派という括りが世界的なものになりました。アメリカン・ルーツミュージックを中心として、ロック、フォーク、ミニマル、エクスペリメンタル、エレクトロニカなど形を変えて様々巻き込みながら展開される、音の万華鏡のようなアルバムです。
 彼らの作品中最もポップなアルバムですが実験性も失われておらず、聴く度に違って聴こえる楽しく不思議な作品です。

 


Eph Reissue

Eph Reissue

 fridgeはUKのバンドで、そのためかUSのポストロックのバンドたちとは違ったスマートなムードを持っています。抽象的かつシュールなサウンドは、テクノやジャーマン・ロック、プログレからの影響を強く感じさせます。kraftwerkとかCanとかNeu!とか…。まさにポストロックとしか形容する他ない絶妙な音楽性。

 


American Football

American Football

  基本ヴォーカル有りということもあり、American Footballはどちらかと言うとインディーロック、エモに近い立ち位置だと思いますが、軽やかなリズムと美しいアルペジオのギターワークは、確実にポストロック的審美眼を通過しています。インディーロック・エモの切ない楽曲を清冽に響かせ、ポップソングとして昇華させた彼らの功績は大きく、今でも度々言及され新たなファンを生み出しています。文脈関係なくロック・ポップス作品としての普遍性も素晴らしいです。




Dream Signals in Full Circles

Dream Signals in Full Circles

 世界的なポストロックの流れを決定づけたかもしれないtristezaの2nd。クリアトーンのギター(と浮遊感あるシンセ)にたっぷりとディレイとリバーブをかけて透き通った音色で空間を埋め尽くす、このスタイルはこのアルバム以後世界的に定着しました。
 音色の快楽性をひたすらに追求した極上のヴェルヴェットミュージックで、その結果、今作ではほぼニューエイジ~イージーリスニングの境地にまで達しています。この衝撃は大きく、ポストロックの音色の共通認識をある程度世間に形成させたと思います。

 このアルバムまではThe Album LeafのJimmy Lavalleがバンドに参加しており、The Album Leafの2nd『One Day I'll Be On Time』は今作と兄弟作とも言える作品です。

 


Cold House

Cold House

 こちらもUKのバンドHoodの5th。叙情的に爪弾かれるディレイギターと、グリッチノイズなどのエレクトロニクスが親和性を持っていることを示しました。インディーロック系のヒップホップレーベル「anticon」とも交流し、ラップも取り込んでポストロック~エレクトロニカ~ヒップホップを横断する独自の音楽性を確立させました。その冷ややかな音像は、冬の夜空を思わせるような美しくもアンニュイな雰囲気を持っています。

 



Smile & The World Smiles With You

Smile & The World Smiles With You

 Steve Albiniプロデュース&エンジニアリングによる2nd。彼がエンジニアを務めていることもあり、楽器の響きが素晴らしく、美しく優しいギターとドラムに、ジャケットのように森林浴している気分になります。ただただこの音に浸かって漂っていたいと思わされる、とにかく爽やかな心地良い作品です。

 

 

 色々挙げてみると、ロックバンド的な編成で、ロックから零れ落ちてしまった音楽を、一時期は何でもポストロックとして扱っていたんだなと思いました。
 上でも挙げたCanやNeu!This Heat、HawkWind、Faustなどのジャーマンロック、プログレ系のバンドもポストロックの文脈から再評価が進みましたが、ポストロックはそれらの音楽と立ち位置的に親和性があったのと同時に、様々なバンドのインスパイア元になっていたと思います。