2013年声優アルバムベスト(その2)
その1に続いてその2です。
ゆいかおりの小倉唯・石原夏織を含む4人組StylipSの1stアルバム。この作品を最後に2人は脱退し、そのためか1stからベストアルバムとなりました。インスト曲とメンバーの能登有沙のソロ新曲が入るなどアルバムらしさの体面を整えた形跡が窺われます。ダンスユニットということもあり、アップテンポでビートの強い曲が続くアルバムです。高田暁、若林充、山口朗彦らのLantis作家陣が中心にソングライティングを担当しています。
グルーヴィなホーンサンバロック"Choose♥me ダーリン"を含むシングル曲はもちろんですが、#6"Fragile Crazy"~#7"Honey Groove"のニューエレクトロ風の曲が続く流れは、ハードなトラックに乗るキュートなヴォーカルが鮮やかなコントラストを生み出しています。特にビブラートの効いた松永真穂の迫力あるテノールヴォーカルと、パンチのある力強い石原夏織のヴォーカルが目立ち、独自の魅力となっています。
- 豊崎愛生『Love letters』(Music Ray'n / Sony Music)
自身の意向や嗜好を感じさせる曲をリリースしている豊崎愛生。今作はChara、安藤優子、Rie fuなど女性SSWたちを迎えて、アコースティックな響きを重視したアルバムになりました。さらにミト(クラムボン)、田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN)、永積崇(ハナレグミ)らも楽曲提供しています。
アップテンポな曲もありますが、全体的に内省的な表現が目立っていて、Norah JonesやJulie Doironなど、しなやかさの中に芯の強さを秘めたシンガーたちを思い出します。アーティスト的な近寄りがたい存在を目指すよりも、等身大の親しみやすさへと着地しているのが彼女らしい方向性だと思いました。
永積崇の手掛けた#12"true blue"は、チェロとギターによるアシッドフォークな一曲。フィールドレコーディングも取り入れた緊張感あるはじまりから、歌が入るとリラックスした雰囲気になっていくのが、彼女の声の持つキャラクター性だなと思いました。
- 坂本真綾『シンガーソングライター』(flying DOG / Victor Entertainment)
豊崎愛生とは逆に、その声のキャラクターに神秘的な存在感と凛とした表情を宿らせる坂本真綾。Mike Kinsella(ex.Cap'n Jazz、ex.American Football)のソロユニットOwenへの愛を明かすなど、インディー・ロック、フォーク周辺の彼女のリスナー体験が今作の制作の元になっているように思いました。作詞作曲を初めて全て彼女自身が手掛け、アレンジを河野伸と渡辺善太郎が担当。
河野伸アレンジの曲は叙情的でウェットに包み込むような音ですが、渡辺善太郎の曲はドラムもギターもサラッとしたドライな仕上がりになっていて、それぞれのアレンジャーによって少女のような内省的な部分と、彼女の自立した女性の部分の二面性が交互にあらわれています。
Vashti BunyanやCat Powerのような孤高のアーティスト道を歩みはじめた坂本真綾。決して派手ではないアルバムですが、徐々にジワジワと効いてくるアルバムです。
- 花澤香菜『Clarie』(Aniplex / Sony Music)
ROUND TABLE北川勝利が声優界きっての激甘ヴォイスの持ち主である花澤香菜のポテンシャルを存分に引き出した1st。彼女のウィスパー・ヴォイスは相対性理論のやくしまるえつこやカヒミ・カリィの声をより甘くしたような、清楚さと優しさを漂わせるこれぞ声優的というもの。
彼のアレンジよる#1"青い鳥"や#3"星空☆ディスティネーション"などは、Burt Bacharachなどのオールドスクールなポップスへの憧憬を感じさせる流麗なストリングスと、彼女の甘い声が組み合わさり、少年漫画に出てくるような正統派文化系少女を体現したイメージが立ち上がってきます。
演技的な歌唱をストレートに展開し、パーソナリティーをさらけ出すことなく、曲毎に設定された少女像を演じきっていて、「Clarieにおける花澤香菜」という想像上のキャラクターのアルバムという趣を感じます。
小林俊太郎と沖井礼二のプロデュースによる1st。
川本真琴がデビュー前に書き溜めていてリリースされていなかった曲"Go インスピレーション War"が提供された#5"G.I.W."は、初期川本真琴が憑依したような鮮烈でファンキーな曲。恐らくデモ通り川本真琴そっくりの節回しで歌っているんですが、息遣いやヴィブラート、強弱の付け方の部分に竹達彩奈らしさが漏れだしています。他にも#12"春がキミを綺麗にした"を川本真琴は提供し、モタリ気味の彼女のヴォーカルに跳ねまわるような軽やかさをもたらしています。
個人的にはやっぱり末光篤による#4"Yes-no"と#13"♪の国のアリス"が、シンプルなメロディーかつパワフルなリズムで、迷いなく彼女のヴォーカルが飛び込んできて好きです。
演技的なヴォーカルという部分は変わらないのに、奔放なイメージが残り、彼女のパーソナリティーを強く感じるのが、花澤香菜のアルバムと対照的で面白く感じました。
1stから約1年半ぶりの2ndアルバム。1stはUSロックな内容のアルバムでしたが、今作はハウスなどにも手を出しながらも、そのロックな流れの延長線上にあります。
今作は曲の表情がクルクルと変わっていく意外にも挑戦的な内容で、特にアルバム後半、#8"くりかえして"は、Radioheadかのようなディレイがかったディストーションギターが印象的な、メランコリックなムード漂う曲。#9"僕は浮かぶ"はKinks、The Whoなウォームなバンドサウンドの60'sクラシックロックな一曲。ラスト曲#10"雨のちスピカ"では、シンセとリバーブギターが宙を舞うスカロックへと着地していきます。子供のように無邪気でキュートな歌声が、ダークさやアンニュイさへと反転して響いてくる瞬間はさすが役者だなと思います。
- 松来未祐『white Sincerely』(HOBiRECORDS / メディアファクトリー)
入れるか迷いましたが、やっぱり好きな作品。ラジオの企画から飛び出した、松来未祐の初の個人名義アルバム。marbleのmiccoと菊池達也が全曲サウンドプロデュース。marble自体も男女ユニットのピチカート・ファイヴ編成の、その影響下にあるユニットで、#1"White Sincerely"、#4"Dream in Dream"、#7"呼吸"などはラウンジや50's~60'sポップスの影響の大きいネオ渋谷系サウンドになっています。
彼女の穏やかで品の良い声はややもするとトラックに埋もれそうになりますが、どの曲も全力で熱唱しているのが伝わってきて、彼女の真っ直ぐな姿勢というか、アティテュードが伝わってくるアルバムです。
去年今年になって、オタク系音楽と渋谷系(含むポスト渋谷系)の接近が注目されました。2007年頃からはじまった、この「アキシブ系」を持ち上げる動きは、メインストリームに対するアンチテーゼなアンサーとして解釈していましたが(最近はメインストリームに回収されていっているように思う)、現在のような大きなムーブメントになったのは、橋本由香利や北川勝利が地道に素晴らしい仕事を重ねてきたことが大きいと思います。