作曲家hisakuniについての個人的まとめ

 最近はアニメ・声優~アイドルの楽曲を中心に手がける作曲家hisakuniが作る曲に注目しています。

 ファンキーなグルーヴを中心に据えながらキャッチーなメロディーを両立させるリズムオリエンテッドな楽曲志向、激しいリズムと呼応するシンセを中心とした華やかなアレンジ、そして様々なアーティストやテーマに対して柔軟にアプローチしていく細やかな対応力が特徴の作曲家です。

 

 彼の存在を知ったのは声優・内田彩へ提供した楽曲を通じてでした。

 

 2015年の内田彩の2ndアルバム『Blooming!』に収録された「With you」は、ピッチアップしているような内田彩の強烈なアニメ声ヴォーカルと完璧にマッチした極彩色の鮮やかなエレクトロハウスで、クオリティの高さに大きな衝撃を受けました。ソリッドなハウスのビートの上にフューチャーベース的なキラキラと輝くサウンドサンプルが次々に注がれ、非現実的なほどにアッパーでファンシーな世界が広がります。

 この曲は彼女のファンにも強いインパクトを与えたようで、hisakuniと内田彩のクラブミュージック系楽曲はこの後も続いてリリースされていきます。よりベースとキックが力強くなったEDMチックな「Floating Heart」、ボルチモアブレイクスのビートを取り入れたパーカッシブな「Everlasting Parade」などを経て、この路線での洗練の限界まで達した象徴的な曲が内田彩の3rdアルバム『ICECREAM GIRL』収録の「Yellow Sweet」。
 

 イントロ~メロ~サビと転調を繰り返しながら、叩きつけるスネアとブーミーなベースが一体となりながら16ビートのグルーヴを生み出すファンキーなフューチャーベースポップスとなっています。

 フューチャーベースと言えばテンポが早いものがほとんどの中、ベースが曲全体を牽引しながら、抑えめのテンポでシンコペーションの効いた変則的なリズムを組み上げていて、流行のサウンドを取り入れながらさらにひとひねりのアイデアを加えるhisakuniの真骨頂とも言える一曲です。

 このファンキーな路線の楽曲には、よりニューウェーブに寄った村川梨衣baby, My first kiss」、トロピカルハウスに寄ったmaimie「ハロー・ニューワールド」などもあります。

 

 

 

 インターネット上で確認できる限りでは、2005年に愛媛大学のジャズサークルで結成された4人組ジャズヴォーカルバンドtock-pangが彼の音楽キャリアのスタートとなっています。その時に作られた曲は現在作っているものとはかなり距離が離れているようにも感じますが、流れるような心地よいメロディーと跳ねるようなスタッカートの効いたギターの演奏は現在の作風と共通するものを感じ取ることができます。
 (ちなみにバンド内に田中が二人いたため当時からhisakuniとして記名することがあったようです)

  元々アコースティックなジャズバンドのギタリストだった彼がジャズ色もなくギターの音色すらも全くないエレクトロニックな曲をいくつも作っていることにも驚きますが、それがハイクオリティかつ単純な模倣に陥らない独自性を持っているのも、彼の柔軟な対応力と吸収力の高さに依る所が大きいように感じられます。

 

 もちろんジャズの出自を活かしたバンドサウンドの曲にもユニークな曲があり、ストリングスとホーンの音色を取り入れたロックディスコな新田恵海「Colorful Parade」、ドラムが忙しなく動き回る上でハープやチャイムが軽やかに響くポストロッキンな「チョコレイト・ブギウギ」なども、彼ならではの華やかさとともに人懐っこい愛らしさを持っている楽曲です。
 

 

 

 これらの曲を聴くと、大きく一括りにされがちなアニメ声優の楽曲に対しても、各個人の細かな歌声やリズム感などの特徴を捉えて、寄り添うように楽曲の色合いを使い分けているのが分かります。個性が強い作曲家でありながらシンガーの色が失われないのは、対象のシンガーの個性を理解して曲をフィットさせていく、そんな細やかな対応力の持ち主であるからだと思っています。

 現在は女性に提供するエレクトロニックな楽曲の反応が良く、実際そんなタイプの曲では彼のユニークさが存分に発揮されていると感じます。しかしそれだけに留まらない鋭いセンスや幅の広さを持った作曲家であるのは間違いないと感じるので、彼のルーツの一つであるジャズやそれ以外の新たな要素を取り入れながら、ひねりを加えていく楽曲が今後登場することに期待しています。