声優アルバムの名盤を考えてみる(2013年上半期)
今年上半期に良いアルバムが集中したので、90年代と00年代以降に続いて、 2013年上半期を書きました。
- clarie / 花澤香菜 (2013)
- アーティスト: 花澤香菜
- 出版社/メーカー: アニプレックス
- 発売日: 2013/02/20
- メディア: CD
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round tableの北川勝利が総合プロデュースを務めた1stアルバム。ポスト渋谷系~渋谷系チルドレンのオールスターのようなメンバーが集まったアルバムになりました。
ミト、沖井礼二、矢野博康、カジヒデキ、中塚武、宮川弾などの豪華作家陣の楽曲はもちろんですが、ボーカロイドシーン出身の若い2人、古川本舗とacane_madderの参加した曲が印象に残りました。
acane_madderと北川勝利による、#2"Just The Way You Are"は、KettelやI Am Robot And Proudのようなエレクトロニカ~トイトロニカ的ビート&ベースと、多層にレイヤーを重ねた花澤香菜のウィスパーヴォーカルが心地いい曲。彼女の声をいかに快楽的に響かせるかが考えられていて、サンプリングボイスをペーストしていくようなコーラスの配置が面白いです。
古川本舗のFurukawa Head.Q. Musicによる#12"眠るサカナ"は、冒頭から響くグリッチと逆再生がHoodやworld's end girl friendなどのエレクトロニカユニットを、マリンバがtortoiseやmice paradeなどのポストロックバンドを意識したように思える響き。生演奏と打ち込みの中間をいくようなリズムプログラミングもtortoise的。その中でもフラットな歌唱での淡々とした花澤香菜の抑えたボーカルが、アルバムの中でもとりわけナチュラルに心地よく響きます。
これだけの面子を集めて、ソウル~ラウンジ~ネオアコを中心とした垢抜けたサウンドを展開しながらも、今作の表情はいかにも「声優の曲」然としていて、それがとても愛おしくもあり…。
- moi / 相沢舞(2013)
- アーティスト: 相沢舞
- 出版社/メーカー: ビクターエンタテインメント
- 発売日: 2013/03/27
- メディア: CD
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自身のトータルプロデュースによる1st。ニコニコ動画で活躍するボーカロイドプロデューサーのみきとP・buzzGを中心に、ex.school food punishmentの蓮尾理之、fu_mou、fhána、有賀俊輔が参加。
基本的にはボカロPの二人、みきとP・buzzGによるUSオルタナ~エモコア的な音数の多いギターロックが中心となっていますが、相沢舞の陰のあるヴォーカルが帯びる切迫感・情念が不穏な空気を漂わせています。爆音の中で叫ぶように歌う#3"タイムカプセル"、#4"1572"などは、PJ HarveyやAlanis Morissette、Liz Phairなどの情念系オルタナ女性SSWたちを思いだすような熱唱。歌詞に対してヴォーカルがエモーション過剰気味なのですが、その溢れだした部分から彼女の音楽活動にかける意気込みのようなものが伝わってきます。
しなやかなヴォーカリゼーションで楽曲ごとにゆるやかに表情を変え、#6"その刹那"ではリーディングパートと歌唱パートでのシームレスな表現力を、#8では男女デュエットでの対応力も見せてくれますが、憂いを帯びながらも後味がサラリとした落ち着いた歌声が耳に残ります。
その過剰な熱量の一方で、エキセントリックさに走らず、センチメンタルにも溺れすぎない、あくまで楽曲主義的な一歩引いたスタンスが保たれていてます。J-ROCKシーンも視野に入れたようなアルバムでありながら、アイドル的な出自やアーティスト的自意識からも少し距離をとった立ち位置とバランスが絶妙です。
- apple symphony / 竹達彩奈(2013)
- アーティスト: 竹達彩奈
- 出版社/メーカー: ポニーキャニオン
- 発売日: 2013/04/10
- メディア: CD
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小林俊太郎とex.cymbalsの沖井礼二プロデュースによる1stアルバム。花澤香菜の1stと対になるような渋谷系のロック的な面をフィーチャーした、全体的にThe ZombiesやThe Whoなどの60'sブリティッシュロックの薫りが漂う仕上がりです。
まず耳に飛び込んでくるのは強烈な声。舌足らずな幼い響きを持ち、かつカラッと乾き突き刺さるような声で、対処に苦慮したんだろうなと想像してしまいます。アルバム全体にドラムとベースで引っ張るビート感の強い曲が多いのは、彼女のゆったりとしたリズムフィールと、声のインパクトに対応するための結果なのではと思っています。
そんなロック的な曲の中でもひときわリズムが強烈な曲が#4"Yes-No"。ピアノ&キーボード末光篤・ギター鈴木俊介・ベースミト・ドラム柏倉隆史によるアルバム中最小4人編成での、シンプルなアンサンブルのピアノロック。ミトのルート8分中心のベースラインと、シンプルな8ビートを叩く柏倉隆史のドラムがどっしりとした安心感を提供しています。ここでは竹達彩奈はしっとりとしたヴォーカルでやや大人っぽい面も見せていて、強い声であるからこそ逆に抑えめな歌い方が彼女の声を印象的に響かせています。
そして#14"時空ツアーズ"は、筒美京平というビッグネームによる、コーラスやリズムからもThe Supremesを思わせるクラシカルなソウル・ポップス。間奏からはELO的なシンセも飛び出し、王道ポップスを突き進むような1曲。のどかな彼女の声と人懐っこいメロディーが組み合わさった、ハッピーなポジティビティに満ちた曲です。
声優の音楽の褒め言葉として「声優らしからぬ」という表現がありますが、そんな「声優らしからぬ」アーティスト的なスタイルで今年アルバムを発表したのが坂本真綾や高垣彩陽で、逆に「いかにも声優」的でありながら素晴らしい内容の作品を届けてくれた花澤香菜と竹達彩奈のアルバムは、今っぽい感じがして良いなと思いました。また、それぞれ対照的であるとともに意図みたいなものも透けていて面白いなと思いました。